
「なりたかったボクに、なるんです」
格好良いところ、純粋なところ、可憐なところ……。
いろいろな表情を持つ彼女を覗ける、短編映画集のようなSS合同誌。
ご好評いただき、完頒いたしました。
公開されている作品はタイトルのリンクからお読みいただけます。
あとがき
君に会いに行こう。 // 日向
まるで打ち上げられた魚みたいだ。
息も絶え絶えに駅のホームへと続くエスカレーターに項垂れるように乗り込んだボクは、既に体力面で赤信号の灯りかけている自分自身をそう見立てた。
愛なき園を抜け出して // riverside
ボクがそれを自覚した日は今でもよく覚えている。
その日は猛暑日だった。父さんが試合に負けた後のことで、ボクと父さんは二人で陽炎の揺れる坂を上っていた。茹だるような暑さの中、父さんはボクの手を引きながら悔しそうに、父さんは負けた後はいつも歩いて帰るんだ、そうすれば次は絶対に勝ってやるって思えるから、なんてことを言っていた。
ナチュラル // 吉原睡眠
事務所に入ると、中にはプロデューサーひとりしか居なかった。大きなヘッドホンをつけて、デスク上でパソコンと向き合っている。ボクには気づいていないみたいだ。ボクは仕事の邪魔をしないように、ソファに腰を下ろす。きょうはオフだけど、来月のスケジュールを確認するために事務所に呼ばれていた。ボクも話したいことがあったから、学校を出てすぐここまでやってきた。
プリンセスにはまだ早い // 浅井結衣
美希がずっと羨ましかった。
ボクが持っていないものを彼女は全て持っているから。ふわふわの長い髪、上向いたまつ毛、女性らしい身体のシルエット。
ないものねだりをしたって仕方がないってことくらい分かってる。それでも、美希を見るたびに憧憬と羨望の念がボクの底から首をもたげる。理想を目の当たりにすることで、現実を突き付けられている気分になる。
だからボクは、きっと美希が苦手だったんだ。
ボクらの期待値 // 微熱体温
電車の車窓に流れる景色の建物が、時を追うごとに少しずつ高さを下げて行く。
都会を離れた電車の向かう先は、ともすれば長閑な田園風景にも似た市街地だろう。
「しぇーんろーはちゅーじゅくーよー♪ どーこまーでーもー♪」
舌っ足らずで幾分調子の外れた幼い歌声が、周囲の邪魔にならない程度の賢いボリュームでなっていた。
「Ranged」 // 牛
突然何が始まったのかと思った。事務所に顔を出したらあずささんがボクを待っていてボクをすぐさま応接のスペースへと連れていった。物腰はいつもと変わりないけど有無を言わせない強さみたいなのが微笑んだ口元に浮かんでいた。そんなあずささんにボクは大人しく、大人しく従った。
ソファに座って鞄を置くと、とても珍しく亜美が飲み物を運んできた。